月別: 12月 2015

新潟県生涯学習推進センターにて

このところ講演が続いた、9月の30日の尾花沢市から始まり今日で4日、毎日日帰りで車の運転をして片道1時間とか2時間とか走っていたのだから、75にもなって我ながら結構丈夫なもんだと思う。
4日目が新潟県に招かれての講演だったから無理して車で行く事は無い、羽越線で楽をしながら向かった、めったに汽車に乗る事が無いからそう感じたのだろうか、引退したと言う心の持ち方が感傷的になったのだろうか。
久しぶりに汽車の窓から見る風景はなんだか夢を見ているような、新鮮でいつもと違う異国の情緒を感じた。
DSCN0128※ グリーン車の手配までしてもらい、新潟市に向かった車窓の風景は夢見るような異国の情緒を感じた、、、俺も本当に退職したんだなー

田園風景の向こうに高館山が見えてテレビ塔が立っていた、変哲もない山並みだがこれまでこうして1歩離れて眺めると言う事はあまり無い、自分が運転する車から50年近くも見慣れた景色が広がっていた、しかし今日は何だかジンと胸に来るものがあった。
DSCN0355※ 汽車の窓からはこんな庄内浜の光景が広がっていた、、、ただしこれは水族館そばの今泉集落です

「ああ俺の仕事人生も終わったのだなー、出勤をする代わりに講演のために新潟に向かっている」毎日色々な思いを抱いて庄内平野を横断し、海のそばの職場に人生を重ねて頑張ったが悲喜こもごも結構長い年月が有った、ガッタンガッタンと揺れながら走る汽車の中から自分の今が見えた。
今日の講演目的は新潟県の「新潟県連携公開講座」が招いてくれたものだ、、、かなり早めに会場に着いたせいで、打ち合わせが済んで時間を持て余し外に出てみた、隣接していた公園内を散歩でもしながら時間をつぶそうと考えたのだ。
桜並木の下を、しばらく進んだあたりで後ろから声がした「村上館長さーん、、、」、振りかえるといい年頃の男女が速足で近ずいてきた、「さっき外に出てゆく姿が見えたので追いかけてきました」そう云われても見覚えのない顔だった。
定年はとっくに過ぎた二人に見えたが、奥様と思しき方がほとんど一人で早口でしゃべっていた「実は私たち夫婦は村上館長のファンです、NHKのラジオ深夜便を聞いてから加茂水族館のどん底からの回復物語が感動的で、もう何度聞いたか分かりません」
高だて山2※ 汽車の窓から高館山がみえた、50年通勤の車から見た山並がまるで初めて見る風景に感じた。
「録音して家事をしながらいつも聞いていました、時々庄内弁が混じる話しぶりが聞きやすく、いつかお会いしたいと思っていました」
「今年の春に加茂水族館に行ってクラゲを見てきました、本当に素晴らしかったです、その時に買った本にサインをしてください」、、と頼まれた。
私が退職間際に出した「無法掟破りと言われた男の1代記」を持っていた、「私は勉強が嫌いでお蔭で字が下手です、、、」とか何とか云いながら、丸太つくりのテーブルを囲むように座り、渡された太いマジックで名前と日付けを書いた。
旦那さんは高校の教師をして退職したとか、奥さんも郵便局を退職されて二人とも仕事から解放されて自由の身らしかった。
私如きの話したことをこんなに喜んで聞いてくれている方がいた,感動したのは私の方だった「これはハナガサクラゲのネクタイピンです、ネクタイはまだ必要ですがこれが無くても良いでしょう」と言って嬉しい思いをさせて頂いたお礼にさし上げた。
今日の講演は、始まる前から大きな力を貰ってしまった、ストーリーに気持ちが載ってうまく行きそうな気がした。
いつも講演する時間は大体が1時間、長くても1時間30分だが今日は2時間与えられていた、こんなに長く話した事は無いが、何せ私の水族館歴は50年に近い歴史が有る。
語る内容には事欠かなかった、いつもは語る事のないよもやま話にまで及んだ、最後にはおまけの様にして民営時代に別れを告げて鶴岡市に買い取られた時のいきさつを話した。
P1060335※ こうしてスライドを写しながら話を進めてゆく、2時間も話したのは初めてだった

、、、、、平成14年3月31日の夕方、乗り込んできた本社の副社長が明日から鶴岡市に移る引継ぎの書類や帳簿を見ていた「おい!残せと言ったはずの金が無いぞどうした」と私に聞いた。
何もせずただ黙って4か月を過ごせば2000万円余るはずだったが、だが1円も残っていなかった「あなたは良いだろう、市に売って東京に帰ればそれまでだ、しかしここの職員はぼろぼろになった建物と共に見られるのだ、少しでもみんなが胸を張って市に移れるようにあの金は皆使った」
ここから先はただの男と男が口角泡を飛ばしての争いになった、そして
長い民営時代に別れを告げて翌日、朝目がさめて見ると肩のあたりが軽く爽やかで、、、、「極楽浄土にたどり着いたかと思った、、、、、、」「これからは自分の仕事だけを考えて頑張る事が出来る」そう思ったのだ。
しかし市には頑張ろうとする現場には大きな壁となって立ちふさがる法令や条例が有った、頑張ろうとすればするほど大きな悪代官となって立ちはだかって来た、振り返って思えば民にも,官にも極楽浄土は無いな、、、と思う、だがそんな中にも挑戦すればいいことも有る、、、、、こんな話をおまけに付け足した。
2時間と10分話が終わり会場を去る私に、拍手が鳴りやまなかった廊下を曲がり聞こえなくなるまで続いていた「あんなに温かい拍手を今まで受けた事は無かった」忘れられない思い出になった。