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狸は朝まで雪が降った日に捕まえる その2

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タヌキは人間の生活に依存している所が有る。雑食性の強みで山に雪が降って餌が無くなると、人の住む集落に降りてきて木に登って取り残しの柿やリンゴなどを食べる他に、畑のものや捨てた残飯を漁って腹を満たしている。

夜通し歩き回って餌を探して明け方になると山の寝ぐらに帰ってゆく。その足跡を追うのである。そのまま真っ直ぐに隠れ家に向かうことは無い。たどってゆくと山に入ってまずウサギの足跡にぴょんと飛び乗って、ウサギの足跡に載せて全く同じように歩く。

狸の足跡は一見すると猫と同じで見分けがつかないくらい似ている。よく見れば僅かに跡が大きいかなと思うぐらいの差だから、跡だけでは判断できない。

ここで突然狸の足跡が無くなるので初めて追う者は見失うことになる。さらに追って行くと大きく横に跳び追跡者から自分の足跡を消そうとする。これも寝ぐらが近ければの行動で読み込み済である。

しばらく行くと今度は大きな木に登り、横に張った枝の先から飛び降りて更に跡を消そうとする。こうした行動は何時身に付いたのかは知らないが、何万年もの間自分より強いものから身を守ろうとして自然と会得したのだろう。

山で狸より強いものは今は熊ぐらいだろう。明治より昔はオオカミが怖かったのだろうか。夜行性だからイヌワシやクマタカを意識はしないだろう。いや長い間一番の敵は人間に違いない。

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独立学園の校舎 – 屋根裏部屋が私の部屋で、3年間を過ごした

 

さらにつけて行くと足跡は尾根筋に出ていた。尾根には風が直接当たり新雪が飛ばされて中の固い雪だけが出ている。ここで足跡は完全に消えてしまう。

しかし矢張り狸も馬鹿なもので、ところどころにスポンスポンと踏み抜いた跡が有る。そしてちょっとした山を越えて陰の雑木林に続いていた。

一帯には数えきれないほどの木が生えていた。タヌキはその中に入って行き足跡は行ったり来たり、横切ったり何が何だか分からないほど入り乱れていた。

こうなるともうどこに居るのか、どのように追いかけて行けばいいのかさえ分からなくなる。もう追う術は絶たれたように思った。

少しうろついてみたが、立木の根元は雪が融けていて覗いても中がうかがえないほども底までも続いている。タヌキは木々すべての根元にもぐっては出てきて跡を付けていた。

雪が深く積もっても、立木の周りは雪が融けて穴になっている。

雪が深く積もっても、立木の周りは雪が融けて穴になっている。

 

雪の深さは3mから4mある。すべての木の根元を掘り起こして確かめるのは不可能であった。私はギブアップであった。しかし連れて行ってくれた親父さんは「アーこれは簡単にどこに居るかわかる」と云ったのである。

この話を今年の10月獣医師さんの集まりでしたことが有った。「タヌキがどこに居るか分かる方が居ますか?」と尋ねたが、100人ほどいた中どなたの手も上がらなかった。

さらに「他の方はともかく獣医さんなら見当がつくのでは?」と付け加えたが反応は無かった。

しかし本当にあまりにも簡単に居場所を特定する方法が有ったのである。親父さんは私に「見てろ!」と言ってその辺一帯を大きく一回りした。

大きな声で狸の足跡を「出た跡、入った跡」と数えていた。一回りしてその範囲に入った跡が一つでも多ければその中に居るという事になる。矢張り足跡は入ったものが多かった。

次はどの木が一番それらしいかを見定めて、その周りを一回りした。「ここだここだ、こごさ居た」とあっという間に隠れ家は見破られてしまった。

獣でも人間でも雪に付いた足跡は進んだ方向が分かるもので、それを応用しただけのごく簡単な方法で有った。しかし人間社会に慣れてしまえばその感覚は失われてしまう。

犬や猫に家畜などを毎日扱う獣医さんでさえ、手も足も出なかったのだ。不可能と見えた最後の詰めも、山の人たちは生活の知恵として身に着けていた。私はこの時ものすごい感動を受けた。一見行き止まりに見えるこの世の出来事も、自分がそう思うだけで実は解決する方法が有るのだと、山の中で教えられた気がした。

背負ってきたシャベルで雪を掘ると木の根元の穴は岩につながっていて、穴が有った。そこに仲良く2匹の狸が隠れていた。

もう鉄砲は不要だった。先が二股になった木の枝を切り取ってきて、一人が狸の首を押さえている間に、もう一人が腹這いになってもぐりこんで足に縄を縛り付けた。

こうして2匹の狸は男どもの手におち、歓声が上がった。

狸の話はここで終わってもいいのだが、もう一つ紹介したい狸捕りの場面を思いだしたので付け加えることにする。(続く)

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